「能面」とは、日本の伝統演劇「能」の上演に当たって、 能役者が装着する仮面のことです。 登場人物すべてが能面を装着するわけではなく、 主に、主役(シテ)とその従者(ツレ)が使用します。 「能」は原則として成人男子の能役者によって演ぜられましたので、演じようとする役が女性や老人、また、超人的・超現実的な存在の場合などに、「能面」によって変身するわけです。 (※通常、実在の男の人間が登場する場合、能面を着用しませんが、これを直面(ひためん)といいます。) 古今東西、世界の諸民族が様々な仮面劇および仮面を創造してきましたが、 「能」および「能面」は共に 極度に洗練され、とぎすまされて発展した世界に誇るべき芸能であり工芸です。
能面は大きく分けて、
翁面・鬼神面・尉面・女面・男面・神霊面・怨霊面・狂言面に分類できます。
それぞれの代表的な面をご紹介します。
おきなめん
能面の発生の中では最も古いとされています。 神事としての能、「翁」にのみ使用される面で、 切顎(顎が切り離され、紐で接合されている)という 他の面に無い、能楽成立以前からの古い形を伝えています。 又「翁」という曲には、芝居としての筋がなく、 神への祈りの呪文のみが並んでいます。 それゆえに翁面は御神体のように神聖視され、 特に丁重に扱われます。
はくしきじょう
福徳円満の表情です。
切顎だけではなく、 抽象化され図案化された曲線仕様の皺や
ボウボウ眉と呼ばれる眉も翁特有のものです。
顎鬚は植毛ですが鼻下髭は白と黒交互 の筆描きです。
きしんめん
翁系面についで比較的早い時期に創作され、 現在のような形式に整えられたといわれています。 この系の面は白眼全体や歯列に大きな金色の金具(金冠) をつけるのが一般的で、 それで怒りや強さを一層強烈にし、神威を示しています。 又、鬼と言えば角が常識ですが、鬼神面には角が無く、 仁王様のように口を大きく開けた阿形と、 口を真一文字に結んだ吽形の二様に作られます。
はなこぶあくじょう
鼻に瘤状の隆起のある、猛々しく強く恐ろしい老人、という意味です。
能面としては最も大 きい部類に入ります。
鬼神系面は普通、上下に歯列がありますが、これは上歯列のみで大きな金冠をはめます。
顎には静脈が浮き上がっています。 何か西方の人種の顔つきを思わせます。
じょうめん
尉面とは老人の男の能面の事です。 老人ですが、頭部には結髪した頭髪があります。 頬骨を高くし、痩せ型に作り、 老人らしく見せていますが、 歯はきれいに整っています。 また、歯列が上だけか上下共にあるか、 眉や鼻下髭を筆で描くか植毛するかで 二通りの性格の異なる尉面があります。
こうしじょう
小牛清光なる面打の創作になるもので、この名があります。
また小尉ともいいます。
尉(=老人)面中、最も端正で品位が高く、
柔和に表現されています。
おんなめん
女面は能面を代表するものです。 長時間の舞台に耐え、 また状況によって色々の表情を表せるよう、 わざと表情を消し作ってある面を 中間表情の面といいますが、 翁面や男面にもあるものの、 特に女面においてその特徴が顕著です。 女面は演出上、年齢の別・品格の別の必要から 多種のものが作られました。
こおもて
小面とは“小さな”という意味ではありません。
プチというフランス語が“小さい”と同時に“可愛い”という意味を持つのと同様、
“可憐な”“若い”“雅やかな”女性という意味です。
女面こそ能の華であり、また小面こそが女面の典型、原点ともいえます。
おとこめん
ちゅうじょう
平安の貴公子、在原業平(ありわらのなりひら)の面影を写したものといわれ、
見るからに臈(ろう)たけた端正さに溢れていますが、それだけに剛さとか無骨さに欠け、
公達(きんだち)の面影です。又、若き武将を主役とした曲にも使われます。
しんれいめん
人知で計り知ることができない 尊さをそなえた神の精霊といった性格をもつ面です。 また、先の鬼神面とも相通じる性格も持っています。 これらの面は眼に細い金冠や 金泥(金粉をニカワ液で溶いたものを塗る) を施したりして、怪しさを表現します。
いっかくせんにん
額に二叉に分かれた一本の鹿の角が生えています。
これは、一角仙人が鹿の胎内より生まれたという伝説に基づいています。
彼は天竺(てんじく)(=インド)に住み、竜神を岩窟に 閉 じ込めるほどの神通力を持っています。
その神通力も美女の誘惑には抗し得ません。
おんりょうめん
戦いで無念の最後を遂げたり、 嫉妬に狂う女性が死後、 霊となって冥土より現れ、怨みをなす人に祟る、 といった種類の面です。 これらの面は眼に細い金冠(但し般若は眼全体が金冠)や 金泥(金粉をニカワ液で溶いたものを塗る)を 施したりして怪しさを表現します。
はんにゃ
能面造形上の最高傑作と言い得るものでしょう。
凄まじい形相ですが、よく見ると怒りの表情だけでなく、その反対の悲しみ・怨みの表情が見えます。
まったく正反対の筋肉の動きをするはずの表情が一つの面の上に一緒に彫られているのです。
きょうげんめん
この世ならぬ存在や動物など、 そして極度の老爺あるいは醜女(しごめ)・尼の様に、 通常とは異なる特徴を強調する場合などに面を付ける。 翁系・神仏系・人間・亡霊 鬼畜・動植物(擬人化)などの系統があるが、 ここでは狂言面として一括りにしている。
うそぶき