能と能面の世界

World of Noh and Noh Masks.

能の機微1

能面の表情の変化図

無=無限

若い女面や中年の女面は大変端正、端麗な面立ちをしていますが、何か一つ物足りない感じもします。瞳は遠くを見、唇は半開きにし、顔面筋肉はまったく緊張がなく、はっきりとした表情をしていません。茫洋としてとらえどころのない表情をしています。実はわざと表情を消去して彫ってあるわけですが、これを中間表情といい、ここにこそ能面の素晴らしさの秘密が隠されているのです。ある特定の瞬間の表情のみを固定的に表していないがゆえに、ある条件が加えられる事によって様々の表情に変化しうる可能性を持つのです。かつて、和辻哲郎は「笑っている伎楽面は泣くことができない。しかし死相をしめす(表情の無い)尉や姥は泣くことも笑うこともできる」と言っています。故にこの「中間表情」は無限表情ヘのスタンバイの姿勢であるわけです。

小面(花型)

面を、または面をつけた演者が顔を少し仰向ける(照らす)と、少し晴れやかな明るい表情になり、また少し俯ける(曇らす)と少し憂いを帯びた悲しげな表情に見えます。面がこのように表情を変化させるのは、機械仕掛けやカラクリによるものではありません。それは劇中の動作や演技力は勿論の事、観客の想像力や思い入れ、ひょっとすると錯覚やらの色々の要素、条件が働いての結果ですが、しかしそれ以前に、面そのもに、それなりの工夫が施されてなければかなわぬことです。

能の機微1

特に若い女面には細微な、亦思いがけない工夫が彫り込まれています。最も大事な所を一つご紹介します。

下瞼は、真正面から見ると目頭と目尻を結ぶ線が一直線に見るが、少し仰向(照らし)けて見ると、波打って見えるように彫ります。こう彫る事によって、照らしてみたとき、目元が少し微笑んで見えます。また面を真横から見たときの上瞼と下瞼を結ぶ線が、実際の人間のそれより大きな角度をつけて彫ります。ですから、面を照らしていくにつれ、目がより大きく見開かれたように見え(上瞼と下瞼を結ぶ線が垂直のときに最大)これまた明るい表情になります。反対に面を曇らせていくにつれ半眼、伏し目がち或いは軽く目を閉じたようになり、愁わしげな、物悲しげな表情へと変化します。

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八百年の時を経て

伝承される

幽玄の芸術世界。

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