能と能面の世界

World of Noh and Noh Masks.

能の機微2

能舞台

能面はどうして小さく作ってあるのか

能面は、役者の顔、特に下顎がはみ出すぐらい小さく作ってあります。又、能面の目は、成人のそれに対して、随分下についています。一見幼児の顔のようです。能面作者はそこにどういう工夫を籠めているのでしょう。

かわいい小面(こおもて)は勿論、大きないかつい顔の大癋見(おおべしみ)・獅子口(ししぐち)といったものに至るまで、すべて左右の瞳を結ぶ線と鼻の頂点との間隔は3cmくらいです。それに対して人間の成人は4cmかそれ以上です。

面の鼻梁及び小鼻裏の凹部に自分の鼻を入れて面を装着しますと、自分の眼は面の瞳孔より1cmまたはそれ以上、上へずれてしまい何も見えなくなります。自分の鼻の頭を少しずらし(別掲の図「小面の裏の平面図」)のA点にあて装着すると、面の瞳孔と自分の瞳孔とが一致して前方が見えます。

どうしてこんな不自然な装着の仕方や、いやその前にそんな面の作り方をするのでしょうか。

それは、できるだけ視界を確保するための工夫です。このような装着をすることによって瞳孔からだけでなく、面のうちで視線を下に向ける事によって、鼻孔から自分の足先の少し前方が見えるのです。これで自分の位置・進むべき方向を見定める事が出来るのです。修練を積まれた方は、もうすでに舞台の広狭・位置関係を身体で覚えておられるのでしょう。しかし面を作る側としては足元も確認できるように配慮して鼻の孔を開けます。

能の機微2

それともう一つ。呼吸と発声を楽にするための工夫でもあります。奈良時代に中国より渡来した伎楽に用いられる伎楽面は、いわゆるフルフェースの形をしており、すっぽり被ります。平安時代の舞楽面・行道面(仏教行事のときにかぶって練り歩いた)になると、後頭部はなくなりますが尚全体に大きく、(能面の20cm前後に対してそれらは30cm前後)顎がすっぽり収まるようです。3者とも面を被っての発声は困難でしょう。演者が発声するためには、下顎が面から解放されている必要があります。

 

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八百年の時を経て

伝承される

幽玄の芸術世界。

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